父と母への手紙
数年前 実家のお墓を建てなおした時
母に 少しまとまったお金と一緒に
手紙を 渡しました
コツコツと 貯めた 私のへそくりを
祖父母の 眠る お墓に
使ってもらいたかったのです
はじめは 驚いていた母も
おじいちゃん達 喜んでくれるわね
そう 言って受け取ってくれました
手紙を 車の中で 読んだ母は
なにか 言ってくれたけど
小さくて聞こえませんでした
しばらくして 鼻声で 母は
ありがとうと
振り絞るように 言ってくれました
運転をしていた父は
しきりに 頬を撫でているようでした
私は この機会に
母に ありがとうと
形にしたかった
言葉で 言うのではなく
手紙で 感謝したかったのです
私は なんでも 若い時から
自分の力以上のことを するせいか
限界まで 無理をしてきて
そのせいか こころもからだも
壊してしまい 心配をかけてきました
母は 一夜にして 幼い弟をなくしていることもあり
少しでも 娘達の具合が悪いと 異常に心配しました
肝硬変に なっていると 知ってても
自分の身体は 二の次でした
私は 回復するのに
ずいぶんと 時間を要しました
若く見えて きれいだった母は その間
一気に 老けこみ まわりが心配するほどでした
あの時 母の忠告を
聞き入れていたら
こんなからだにならなかった
でも 母は 責めなかった
一言も
ありがとう
そして
ごめんなさい
お母さん
そして 父へ
父は とても 厳格で
私は 子供の頃 テレビもマンガも
見せてくれませんでした
母が こっそり マンガを買ってくれるのですが
夜 布団の中で 読んでいると
父が 部屋に来て 没収するのです
小学生の時は 父の机で
毎日漢字の書き取りを させられました
中学の時は 成績が落ちると
部活動を 辞めさせられました
それなのに 1番をとっても
決して 褒めてくれず
父は 昔の自分の自慢話をするのです
母は 私たち姉妹の反抗期が
なかったと言います
反抗が できなかっただけで
それくらい 父は
頑固で 融通がきかなかったのです
でも でもです
この頃の父は 優しいです
なぜでしょう
あんなにも 怖い存在だった父が
小さく見えます
父は 70を過ぎて シルバー大学で
歴史を 学びました
大学院に 進み そして 博士号まで取り
今 ボランティアで 歴史を教えています
父は 努力家で 勤勉で
たくさんの資格を 持っています
趣味で続けてきた書道が縁で
77歳の今も仕事をしています
歌の先生宅に通って カラオケも練習しています
すごく 下手で
わがままで 短気で
そして 私に なにかあっても
決して 言わないけれど
何も言わない
父の沈黙は
長い年月を経て
私の胸に 唸るように響いて
この歳になって
ようやく 父の偉大さに
素直になれました
面と向かって 父に
改まって ありがとうなんて
とてもでないけど 言えません
手紙にするなんて
もっと できない
だけど 私は 父に伝えたい
母より 少し遅れたけど
父に 手紙を渡したい
お父さん
私の父で ありがとう
こころから そう 思います
50を過ぎた娘から
遅くなったけど ありがとう
短い手紙だけど
誰に聞かせることもない
父への手紙
私の全快祝いと一緒に と
延びてしまっている金婚式を機に 渡したい
母は 頑なに 嫌がるけれど
今も 心配ばかり
ごめんなさい
私は 片眼に障がいが残ってしまったけど
今も その眼で はっきりと
父と母の 愛が 見えています
以前より ずっと 確かに